ピッツァイオーロ『L’ARTE』井上さんにインタビュー。「二度と同じには焼けない、ピッツァは一期一会」
インタビューに答えてくれたのは、ナポリピッツァ協会にも認められた本格ナポリピッツァが味わえる、三軒茶屋『トラットリア ピッツェリア ラルテ』でオーナー兼ピッツァイオーロとして活躍する井上勇さん。これまでのキャリアや仕事への心構えなどを伺いました。これからピッツァイオーロを目指す人は、ぜひ参考にしてみてください。
いろいろな縁が重なり、ピッツァイオーロの道へ
もとから料理人になりたいと思っていたわけではなく、19〜20歳の頃、たまたま中目黒にオープンしたナポリピッツァの店で皿洗いのアルバイトを始めたのがきっかけだったと、井上さんは言います。
「そのうち店長からやってみるかと言われ、ピッツァを作り始めるようになりました。そこで働くうちにある程度ピッツァが作れるようになったんですが、イタリア人が店に来るたびに『これは美味しいけど、本物のナポリピッツァではないね』と言われるんです」。
当時はイタリアの食材はなかなか手に入らず、井上さん自身イタリアに行ったこともなかったので、本場と何が違うのかと悩んだそうです。そんなこともあり、6年ほど働いた後に退社して、イタリアへ行って本場のピッツェリアで働くことになります。
「実際に行ってみて、やっぱり全然違うなぁと。働く役回りとかも違いますしね。3カ月いたんですがイタリア語は全然しゃべれなかったので、毎日辞書を引いてました。それからはやっぱりイタリアは定期的に行っておいたほうがいいと思ったので、年に1回はイタリアへ行くようにしています」。
一つの区切りとして、自分の店を開く
いつかは店がやりたいと考えていた井上さん。イタリアから帰ってきた後は駒沢にあるトラットリアでメイン料理長として働き、3年くらいたった頃にそろそろ店を開こうと思います。そこで、中目黒で『トラットリア ピッツェリア イル・ルポーネ』というお店をオープン。このとき30歳でした。
「20歳の頃に料理を始めて、『10年ぐらい経ったら店を開こう』というのが自分の中で一つの目標でした。失敗してもまだ30歳ならやり直せると思っていましたし、3年は頑張ろうと。それで売れなかったら、またどこかで働かせてもらえばいいやと思っていました」。
しかし、そんな井上さんの心配は杞憂に終わり、『トラットリア ピッツェリア イル・ルポーネ』は人気店になります。それから何年かすると、井上さんの下で働いていた後輩が育ったため、新しい物件を三軒茶屋で探し、井上さんは2号店である『トラットリア ピッツェリア ラルテ』を開店して、そちらに移ることに。今では『トラットリア ピッツェリア ラルテ』も、週末は予約必須の人気店となっています。
味見ができないから自分の感覚だけが頼り。そこが面白い
「まずどんな国でも、ピッツァイオーロの技術があれば食べていけます。水や小麦なんかの材料はどこの国でもありますし、路頭に迷うことはないでしょう」。
ピッツァイオーロの技術をそのように形容した井上さん。やりがいについて伺うと次のような答えが返ってきました。
「ピッツァは料理と違って出来上がるまで味見ができないので、自分の感覚に頼って作らなければならないところが、ピッツァイオーロの難しさでもあり楽しいところ。生地を延ばして具をのせて釜に入れたら、ここらへんがこう膨らんでこう焼きあがるだろうなと思っていても、全然違ったりするんです。それが面白いところですよね」。
同じピッツァは二度と焼けないほど、一期一会なものなのだそう。
全然お客が入らない時期を乗り越え、人気店へ
次に、これまで仕事で大変だったことは何だったのかを伺いました。
「中目黒の『トラットリア ピッツェリア イル・ルポーネ』を開いて最初の一年は、全然お客さんが来ない時期があって、その時は本当に辛かったです。オープンして最初は人が来たんだけど、リピーターがなかなか来なくて」。
ほとんど予約が入らなかった時には、来てくれたお客さんを大切にしようという気持ちでサービスをしたり、気になって店頭で見ているお客さんにはアプローチしたりと努力を重ねたそうです。そうした努力の結果が、今のお店の人気に繋がっているんですね。
ピッツァイオーロには辛抱強さや探究心が必要
代表的なメニュー「マルゲリータ」。表面はカリッ、中はもっちりの、ナポリ仕込みのピッツァが味わえる
「ピッツェリアに向いている人は、日々同じことを飽きずに探究心を持ってできる人ですね。あぁまたマルゲリータ作るのかぁとうんざりするんじゃなくて、もっと良くするにはどうしたらいいだろうと考えていけるといいと思います」。
井上さんが今の若いピッツァイオーロを見ていると、ある程度焼けるようになった1年ぐらいで店を辞める人が多いそう。店を辞めたり移ったりするにしても、もう少しやって自分にお客をつけてからの方がこれからに繋がるのではないかと感じると言います。
実際に訪れてみて、気持ちの良いところで働いて
肉を使ったピッツァも定評がある。こちらは、ジューシーな肉をのせて焼き上げる「ポルケッタ」
最後に、ピッツァイオーロを目指す方へメッセージをいただきました。
「店選びをしっかりすることが、何よりも大切ですね。ある程度集客がある店じゃないと場数が踏めないので、自分の店を開いたりするときにイメージがしづらいと思います」。
井上さんは、働く前に実際に店を訪れてみることが重要と言います。
「働いてみたいと思う店が見つかったら、一度はそこに食べに行ってみて、スタッフの顔を見てみてほしいですね。なんか気持ちがいいなと思ったら、そこで働いてほしいな。ピッツァだけじゃなく、店自体をよく見て選んだ方が良いと思います」。
笑顔でざっくばらんに話してくださった、気さくな兄貴肌の井上さん。ピッツァを焼いているときの真剣な表情とは、また違う魅力がありました。ピッツァイオーロの仕事に興味がある方は、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。
ピッツァイオーロの仕事術 よくある質問
ピッツァイオーロの仕事の面白さや、やりがいは何ですか?
料理と違い、ピッツァは窯に入れるまで味見ができない点です。生地を伸ばし、具をのせ、焼くという一連の工程を、全て自分の感覚だけを頼りに行います。思い通りに焼き上がらないことも含めて、二度と同じものは焼けない「一期一会」なところが、この仕事の難しさであり面白さだと井上シェフは語ります。
井上シェフは、どのようにしてピッツァイオーロの道へ進んだのですか?
偶然始めた皿洗いのアルバイトがきっかけです。お店でピッツァ作りを覚えましたが、イタリア人客に「本物ではない」と言われた悔しさから、イタリアへ渡って本場の技術を学び、帰国後に料理長を経て30歳で独立しました。
ピッツァイオーロには、どのような人が向いていますか?
日々同じ作業に飽きることなく、常に「もっと良くするにはどうすればいいか」と考え続けられる探究心のある人です。毎日作るマルゲリータ一枚一枚に、改善の意識を持てるかどうかが重要になります。
これからピッツァイオーロを目指す人が、働くお店を選ぶ上で最も大切なことは何ですか?
井上シェフは「店選びが何よりも大切」と語ります。まず、十分な経験(場数)を積むために、ある程度繁盛しているお店を選ぶこと。そして、働く前に一度客として訪れ、お店やスタッフの雰囲気が自分に合うかを確認することが重要です。
若いピッツァイオーロがキャリアを積む上で、注意すべき点はありますか?
ある程度焼けるようになった1年程度で辞めてしまうのではなく、もう少し長く続けて、自分を指名してくれるお客様(ファン)をつけてから次のステップに進むべきだと井上シェフは考えています。それが将来に繋がる大切な財産になります。
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店名/ Trattoria e Pizzeria L’ARTE(トラットリア ピッツェリア ラルテ)
住所/東京都世田谷区三軒茶屋1-35-17 1F
電話番号/03-3424-3003
営業時間/12:00~14:00(L.O.)、18:00~22:00(L.O.)
