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「イタリアと日本の架け橋に」。イタリアン『ぺペロッソ』総料理長今井さんにインタビュー
目次
イタリアンの料理人の温かさに惹かれ、郷土料理を学べる店に
始めは、単純に「カッコイイなぁ」と思ってフレンチとイタリアンの専門学校に入ったという今井さん。その後イタリアンの料理人の道を選ばれたのは、どのような理由からでしょうか。
「専門学生の頃に、食べ歩きでイタリアンレストランに行った時の印象からです。フランス料理店にも行きましたが、忌憚なく言うと、フランス料理店は学生だとシェフに相手にされなかったりして冷たく感じました。もちろん店にもよると思いますが……。一方、こちらも店によるかもしれませんが、イタリアンでは、学生だというといろいろと教えてくれたりして人が温かく、みんなとても楽しそうに働いているように見えました」。
その後、今井さんは専門学校を卒業し、広尾にあるイタリアの郷土料理店『イル・ブッテロ』で働きます。おしゃれな創作料理系のイタリア料理店ではなく、イタリアの歴史が詰まった郷土料理が学べる店で働きたいと思って決めたそうです。
「イタリアの食文化をもっと広めたい」という想いを抱き『ぺペロッソ』へ
一番はじめに働いたその店は、イタリア・トスカーナ地方の郷土料理店。そして約5年半後に別のお店に移ります。
「今思うとちょっと調子に乗っていたのかもしれませんが、5年半もいるとトスカーナ料理は全て極めた気がしてしまったんです。それで、あと30年とかずっとトスカーナ料理を作り続けるのではなく、シチリアとか他の地方の郷土料理も学んでみたくなってしまって」。
次に働くことに決めたのは、同じ広尾にある『インカント』というイタリア料理店。イタリア全土の郷土料理を出していたので、いろいろな地方の郷土料理が学びたい今井さんにとって、まさにうってつけのお店でした。
「しかし、最初は『30歳以下の経験のない若手は採用しない』と断られてしまいました。何度もシェフに熱意を伝え、最後には店の近所に引っ越して熱意をアピールしたところ、何とか働けるようになりました(笑)」。
『インカント』は少数精鋭で5人ほどのスタッフが働いていました。いろいろな郷土料理を研究して作ったり、食べログのイタリアン部門で日本一に何度か選ばれたりと、とても充実していたそうです。今井さんはなぜそんな場所を辞めてまで、独立したいと考えたのでしょうか。
「『インカント』で働いて5年半ほど経ち、今度はもっと早いスピードでイタリアの郷土料理を知りたいと思うようになりました。この先どうしていこうか、自分は何がしたいのかと考えはじめました」。
その結果、「イタリアの郷土料理という食文化を日本でもっと広めたい」という気持ちに行きつきました。そのためには、同じスキルを持つ人間が同じ店で固まっているよりも、散らばったほうがより多くの人に広められるのではないか、それならばこの店を出て自分がこれまで培ってきたもので挑戦したい、と考えるようになったそうです。
『インカント』を辞めて数ヵ月して、三軒茶屋にある30年続くイタリア料理店『ぺペロッソ』でシェフをやらないかという話を受けます。メニューも含めて、すべて自由にリニューアルしていいという条件だったそうです。
「来る前は店の経営状態も悪く、はっきり言ってどん底の状態。まっさらの新しいお店を作るという方法もあったのですが、そんなどん底の状態からお店をV字回復させるというのは、本当に自分の力を試せると思ったので引き受けました」。
リニューアルにともない、全スタッフを一新。「イタリア料理に詳しくなかった人に入ってもらったほうが『イタリアの郷土料理などの食文化を日本でもっと広めたい』という考えが活きる」と思って、あえて既存スタッフを雇用しなかったそう。このあたりにも、今井さんの想いの強さを感じました。
はじめはメニュー価格が上がったことに戸惑っていた以前からの常連客にも、「上質な素材を使い、手間をかけているから」と説明をして納得してもらいました。それからは少しずつ店の評価も上がり、今では三軒茶屋でなかなか予約のとれないイタリアンとなっています。
イタリアンの料理人として、「日本とイタリアの架け橋になりたい」
イタリアンの料理人として仕事のやりがいは、料理を通して「イタリアの郷土料理という食文化を伝えていけること」にあると今井さんは言います。
「ずっと昔から伝えられてきたこの文化を守っていきたいですね。まだまだイタリアには知らない地方の料理があるので、一生勉強を続けられます。また、イタリア現地の農家から野菜を輸入したり、イタリアの作家がつくる器を使ったり、時にはイタリア政府など、料理人はいろんな人を巻き込んで仕事できるのが楽しいです」。
今井さんの今後の目標や夢は、「イタリアの文化を守るために、日本とイタリアの架け橋になりたい」とのこと。レストランでイタリアの農家がつくる野菜を使い生産者にフォーカスを当てることで、まずは一次産業を発展させていきたいと取り組んでいらっしゃるそうです。
イタリア料理を作ることで、イタリアの歴史や食文化を守っていける
最後に、これからイタリアンの料理人を目指す人へのメッセージを伺いました。
「ヨーロッパの食文化は、イタリアから始まったと言っても過言ではありません。西洋料理の基本は、すべてイタリア料理という説もあります(※諸説あり)。ただ美味しいものを作るだけではなく、流行り廃りではないイタリアの奥深い郷土料理という文化や歴史を守っていけるということ。そういう意義を感じながら働けるというのは、料理人にとってやりがいに繋がると思います。また、イタリア人の人の良さにも注目したいですね。こんなに僕がイタリア文化を好きになったのは、彼らの気さくな人柄もきっかけのひとつです。きっと一度でもイタリア人と触れ合ってみれば、きっとイタリア文化のファンになってしまいますよ」。
いかがでしたか。強い意志と持ち前のバイタリティで道を切り開いてきた今井さん。イタリアンの料理人を目指す方はぜひ一度お店に足を運んで、さらにいろいろなお話を聞いてみてください。
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【料理人データ】
今井和正(いまい かずまさ)
三軒茶屋「ぺペロッソ」の総料理長兼チーズプロフェッショナル協会認定講師、イタリア郷土料理教室講師。
【店舗データ】
住所:東京都世田谷区太子堂1-12-23 第一ゴールドビル1F
電話:03-3424-4230