「飲食店はきつい」は本当？ 不安を乗り越える具体的な対策と長く続けるコツ

多くの人が抱く「飲食店はきつい」というイメージ。それは事実も含まれていますが、もう半分は乗り越えた先にある大きなやりがいや喜びを見過ごしています。
「きつい」ことがあるのはどのような仕事でも同じですが、なぜ飲食店が「きつい」と言われやすいのか、その理由と真相を探っていきましょう。

（１）体力的にきつい

飲食店の仕事は、基本的に立ち仕事です。長時間立ち続けることによる足腰への負担や、時には重い鍋や食材を運ぶこともあり、体力的なきつさを感じる場面は確かにあります。特に働き始めの頃は、慣れない動きに筋肉痛になることもあるでしょう。
しかし、これは裏を返せば、働きながら自然と体力がつくということ。正しい姿勢や体の使い方を意識し、後述する対策を取り入れれば、負担は大幅に軽減できます。むしろ「運動不足が解消された」という声も聞かれます。

（２）精神的にきつい

お客様からのクレーム対応や、忙しい中でのスタッフ同士の連携など、精神的なプレッシャーを感じることもあります。多様な価値観を持つお客様や同僚と接するため、コミュニケーションの難しさに直面することもあるでしょう。
しかし、これらはすべて「対人スキル」を磨く絶好の機会です。クレーム対応を経験すれば問題解決能力が身につきますし、チームで働くことで協調性が養われます。最初はきつくても、経験を積むことで精神的に大きく成長できるのが飲食の仕事の醍醐味です。

（３）時間的にきつい

飲食店の仕事は、覚えることが多く、スピード感が求められます。メニューの内容、テーブルの配置、オーダーの取り方、レジの操作など、業務は多岐にわたります。特にランチやディナーのピークタイムは、まさに時間との戦いです。
しかし、この環境は「効率的に物事を進める力」を飛躍的に向上させます。優先順位を判断し、段取りを考え、テキパキと業務をこなすスキルは、どんな業界でも通用するポータブルスキル。最初は戸惑うかもしれませんが、一つひとつ着実に覚えていけば、必ず自分の力になります。

飲食店の仕事は、大きく「ホール」と「キッチン」に分かれます。ここでは、それぞれのポジションで感じる「きつさ」のリアルと、それを上回るやりがいについて解説します。

ホールスタッフ編

「飲食のホールはきつい」とよく言われますが、その中心にあるのはお客様との直接的なやり取りです。

お客様との最前線で感じるプレッシャー

ホールスタッフは、お店の「顔」です。お客様からの期待や時には厳しい意見を直接受け止める最前線に立つため、常に高いレベルの接客が求められます。複数のテーブルを同時に気にかけ、オーダーミスがないように気を配るプレッシャーは決して小さくありません。

やりがい

そのプレッシャーを乗り越えた先には、何物にも代えがたい喜びがあります。お客様からの「美味しかったよ、ごちそうさま」「あなたの接客が素敵だったから、また来るね」という一言。その言葉で、一日の疲れが吹き飛ぶほどの達成感とやりがいを感じられるのが、ホールスタッフ最大の魅力です。

キッチンスタッフ編

「飲食のキッチンはきつい」というイメージは、正確さとスピードが求められる仕事内容に起因します。また、ホールスタッフと比較すると力仕事が多いため、体力的にきついという面もあります。

精密な作業と、時間との戦い

キッチンスタッフは、火を使う環境にいることが多く、熱い調理器具や刃物を扱うため、常に危険と隣り合わせです。正確なレシピに基づいた調理、美しい盛り付け、そして何よりもお客様を待たせないためのスピードが求められます。ピークタイムにはオーダーが次々と舞い込み、まさに戦場のような状況になることもあります。

やりがい

その厳しい環境だからこそ、チームでピークを乗り越えた後の一体感は格別です。仲間と協力し、一つの目標に向かって全力を尽くす経験は、大きな自信に繋がります。また、自分の手で食材が美味しい一皿に変わっていく過程は、モノづくりの喜びに満ちています。料理のスキルが日に日に上達していく実感も、大きなやりがいとなるでしょう。

「きつい」と感じる原因がわかれば、対策を立てることができます。ここでは、具体的な3つの側面から、きつさを乗り越えるための実践的な工夫やテクニックをご紹介します。

立ち仕事で体力を維持するための３つの工夫

飲食店がきついと言われる理由はまず「立ち仕事」であること。立ち仕事に対応できるような対策をしっかりととって、体力を維持すれば問題なく働けるようになります。

まずは適切な「靴選び」から

一日の大半を支えてくれる「靴」は、最も重要な仕事道具です。自分の足にフィットし、クッション性の高いものを選びましょう。可能であれば、滑りにくい厨房用のシューズがおすすめです。
店舗によっては靴が指定されている場合もありますが、その場合はインソール（中敷き）を活用するだけでも、足腰への負担は大きく変わります。

休憩時間を効果的に使う

短い休憩時間でも、ただ座っているだけではなく、靴を脱いで足を解放したり、軽くマッサージしたりするだけでリフレッシュ効果が高まります。
足を心臓より高い位置に上げるだけでも、立ちっぱなしで下がった血流が身体に戻っていくため、むくみ解消に繋がります。また、ランチとディナーの営業時間が分かれている店では、2時間程度の休憩を取れる場合もあるため、仮眠をしっかりとることも有効です。

日々の簡単なストレッチで疲労をためない

仕事終わりや寝る前に、アキレス腱やふくらはぎ、股関節などを中心に簡単なストレッチを行う習慣をつけましょう。血行が促進され、疲労回復を早めるだけでなく、怪我の予防にも繋がります。

膨大な仕事を覚えるためのテクニック

飲食店の仕事には様々な業務があり、覚えることも膨大にあります。事前に対策することによって、少しずつ覚えていきましょう。

何から順番に覚えればいい？

飲食店の仕事は多岐にわたるため、一度にすべてを覚えようとするとパンクしてしまいます。まずは「挨拶と笑顔」「テーブル番号」「ドリンクの提供」など、業務の基本となる部分から確実にマスターしましょう。
先輩たちも、最初は何もわからない状況からスタートしています。一つできることが増えれば、自信がつき、次のステップに進みやすくなります。

効果的なメモの取り方

店舗によってマニュアルがある場合もありますが、最初のうちは実際の作業の順番などについてはメモを取ることも多いでしょう。その際、ただ言われたことを書き写すだけでなく、自分で図やイラストを描き加えたり、色分けしたりすると記憶に残りやすくなります。
ポケットに入る小さなメモ帳を常に携帯し、「なぜそうするのか」という理由まで書き留めておくと、応用が利くようになります。また、聞いた内容を自分で「まとめ直す」ことで、頭に入りやすくなるので、自分用のマニュアルを作るつもりでメモと向き合いましょう。

先輩に質問するタイミング

忙しく常に動いている先輩に質問するのは勇気がいるもの。特にキッチンスタッフの場合は火や刃物を使っている先輩に不用意に近づいたり、いきなり声をかけたりすると危険な事故につながる可能性もあるため、特に注意したいところです。
わからないことがある場合、まずは自分で考え、それでもわからない時に「今、少しだけよろしいでしょうか？」と相手の状況を気遣う一言を添えて質問しましょう。ピークタイムを避け、比較的落ち着いている時間帯を狙うのがポイントです。

ストレスと上手に付き合う、セルフメンタルケア

飲食店で起こる「ストレス」は主にお客様とのやりとりや仕事のミスに起因します。自分の機嫌をケアしてあげられるのは自分自身に他なりません。以下のセルフケアによって自分のメンタルを保ちましょう。

嫌なお客さんのことを引きずらない方法

理不尽なクレームなどで嫌な思いをしても、「自分個人が攻撃されたわけではない」「お店の代表として対応しただけ」と割り切ることが大切です。
信頼できる同僚や上司に話を聞いてもらうだけでも、気持ちは軽くなります。仕事が終わったら、ゆっくり休息をとり、好きなことをして、意識的に気持ちを切り替えましょう。

ミスをして落ち込んだ時、どう立ち直る？

ミスは誰にでもあります。大切なのは、同じミスを繰り返さないことです。なぜミスをしたのか原因を冷静に分析し、次への対策を考えましょう。過度に自分を責めず、「失敗は成功のもと」と捉えて、気持ちを切り替えることが成長への近道です。

職場で悩みを相談できる人を作ろう

一人で悩みを抱え込むのが一番よくありません。仕事の悩みや不安を共有できる同僚や、親身に話を聞いてくれる上司を見つけましょう。同じ「きつさ」を知っている仲間だからこそ、分かり合えることがたくさんあります。

飲食店の仕事は、ただきついだけではありません。その厳しい環境だからこそ、他では得られない貴重なスキルが自然と身につきます。これらはあなたの市場価値を高める強力な「武器」となります。飲食店で培った経験は、きっと未来のあなたを助けてくれるでしょう。

マルチタスク能力

ホールスタッフであれば、複数のテーブルから同時に注文を受け、ドリンクを作り、料理を運び、会計をする。キッチンスタッフであれば、注文の入ったものに対応する際、調理中の段階に応じて並行して作業を行う場合がほとんどです。
こうした一連の作業を同時にこなすことで、物事の優先順位を判断し、効率的にタスクを処理する高度なマルチタスク能力が養われます。

問題解決能力・クレーム対応力

「注文と違う料理が来た」「予約したのに席がない」など、予期せぬトラブルは飲食店では日常茶飯事です。
その場でお客様にご理解いただきつつ、問題を解決に導く経験を積むことで、冷静な状況判断力と高い問題解決能力が身につきます。

チームワーク

飲食店は一人では決して成り立ちません。ホールとキッチンが密に連携し、お互いをサポートし合うことで、初めてお客様に最高のサービスを提供できます。
仲間がこの瞬間に望んでいることはなにか、次になにをやるか、先を読みながら連携していく経験を通じて、チームで目標を達成する喜びと、本物の「チームワーク」を学ぶことができます。

ここで一度、あなたが飲食店の仕事に向いているかどうか、セルフチェックしてみましょう。

飲食店が「天職」になる可能性が高い人の特徴

・人と接することが好きで、誰かの「ありがとう」に喜びを感じる人
・じっとしているより、体を動かしている方が好きな人
・チームで協力して何かを成し遂げることにやりがいを感じる人
・美味しいものを食べたり、作ったりすることに興味がある人
・臨機応変な対応が得意で、変化を楽しめる人

飲食店の仕事が「きつい」と感じやすい人の特徴

・自分のペースで、一人で黙々と作業をしたい人
・体力に自信がなく、立ち仕事に極端な抵抗がある人
・予期せぬトラブルやクレーム対応に強いストレスを感じる人
・衛生管理や細かいルールを守るのが苦手な人
・週末や祝日に休みを取りたい人

とはいえ、これらの特徴に当てはまる・当てはまらないからといって、飲食店が向いていないと落ち込む必要は全くありません。飲食店は間口が広く、多様な働き方ができる場所です。最初は苦手だと感じても、経験を積む中で成長し、自分の良さを活かせる場面が必ず見つかります。

飲食店への適性は、以下の記事で詳しく自己診断をすることもできます。
▼診断記事へのリンク

かつては「飲食業界＝ブラック」というイメージがありましたが、近年、その状況は大きく変わりつつあります。人手不足を背景に、各社が働きやすい環境づくりに力を入れています。

「週休二日」など、柔軟なシフトを組む店が増えてきている

プライベートとの両立を重視する働き方が主流になる中、飲食店でも週休二日制を導入したり、個人の希望に合わせた柔軟なシフト制度を取り入れたりする店舗が増えています。

注文などのデジタル化により、人の担当する作業が変化

タッチパネル式の注文システムや配膳ロボットの導入など、IT化・DX化が進んでいます。これにより、オーダーミスが減ったり、スタッフの負担が軽減されたりしています。人はより付加価値の高い「おもてなし」に集中できるようになり、仕事の質も変化しています。

給与水準の上昇

最低賃金の上昇に加え、人材確保のために給与水準を引き上げる企業が増えています。スキルや経験に応じて昇給や手当がつくなど、頑張りが正当に評価される環境が整いつつあります。

きついと感じるかどうかは、お店の環境に大きく左右されます。ミスマッチを防ぎ、長く続けられる職場を見つけるためのポイントをご紹介します。

求人情報に応募する前に確認すべき６つのチェックポイント

（１）給与条件

時給や月給の金額だけでなく、交通費は全額支給か一部支給か、昇給はどのような基準（勤続年数、スキルアップなど）で行われるのか、賞与（ボーナス）の実績はあるかなど、収入に関わる部分は細かく確認しましょう。深夜手当や残業代の支払いルールも重要なチェックポイントです。

（２）シフトの条件／年間休日

「週2日からOK」といった情報に加え、シフトの提出方法や提出期限、急な休み（体調不良など）への対応方法についても確認しておくと安心です。正社員の場合は、年間休日数や有給休暇の取得しやすさも、長く働く上での大切な要素になります。

（３）研修制度の有無

「未経験者歓迎」の言葉だけを鵜呑みにせず、具体的な研修内容（接客マニュアルの有無、OJTの期間、誰が教えてくれるのかなど）を確認しましょう。研修制度が整っている職場は、新人を大切に育てる文化がある可能性が高いです。

（４）従業員の定着率（離職率）

求人サイトで常に同じ募集を見かける場合は、人が定着しにくい環境である可能性を考えましょう。直接的な離職率の確認は難しいですが、ネット上で情報がないか探したり、面接でスタッフの平均的な勤続年数を尋ねてみるのも一つの方法です。

（５）お店のクチコミ

グルメサイトやGoogleマップ、転職クチコミサイトなどをチェックし、客観的な評判を確認しましょう。その際、料理の味だけでなく「スタッフの対応が丁寧」「店内の雰囲気が良い」といったコメントや、逆に「スタッフがいつも忙しそう」「人手が足りていなそう」といった働き方に関する記述に注目すると、内部の環境を推測するヒントになります。

（６）実際に行ってみた雰囲気

可能であれば、一度はお客としてお店を訪れてみましょう。スタッフの表情や連携、お店の清潔感などを自分の目で確かめるのが最も効果的です。その際に感じた料理やお店の好きなところは、面接で語れるアピールポイントにもなります。

面接時に質問すべきこと、見るべきことは？

面接は、自分をアピールする場であると同時に、お店を見極める場でもあります。

一日の仕事の流れ

具体的な仕事内容やタイムスケジュールを質問することで、入社後の働き方をイメージしやすくなります。

新人の教育方法

「誰が」「どのように」仕事を教えてくれるのかを確認しましょう。「見て覚えろ」というスタンスなのか、マニュアルや研修プログラムがあるのかは大きな違いです。

スタッフの年齢層や雰囲気

「働いている方の年齢層はどれくらいですか？」といった質問から、職場の雰囲気を探ることができます。

可能であれば、職場を見学させてもらおう

面接の際に「もし可能でしたら、少しだけ職場を見学させていただくことはできますか？」とお願いしてみましょう。実際に働いているスタッフの様子を見ることで、得られる情報は非常に多いです。

万全の対策をしても、どうしても飲食店の仕事を「きつい」「辞めたい」と感じてしまうことがあるかもしれません。そんな時は、自分を追い詰めないでください。

まずは信頼できる上司や同僚に相談する

一人で抱え込まず、まずは信頼できる人に話を聞いてもらいましょう。アドバイスをもらえたり、解決策が見つかったりするかもしれません。

ポジションの変更などを相談してみる

例えば、「キッチンはきついけど、ホールならやれそう」といった場合、ポジションの変更が可能か相談してみるのも一つの手です。

無理せず転職を視野に入れることも大切

心身に不調をきたすほどきついのであれば、無理して続ける必要はありません。そのお店があなたに合わなかっただけです。飲食業界で得た経験は、次の職場で必ず活かせます。自分を守るための転職は、決して逃げではありません。

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